さ み だ れ 雑 記 | 55 | 2000年5月28日 |
あきらめましょうと 別れてみたが
なんで忘りょう 忘らりょか 命をかけた 恋いじゃもの 燃えて身を焼く 恋ごころ 喜び去りて 残るは涙
|
作詞:佐伯孝夫、作曲・編曲:佐々木俊一、歌うは児玉好雄。昭和10年7月発売、である。
おセンチです。好きです。I hope you'll like it.
で終わってもいいんですが、あんまりなんで〜。。。
昔、NHKのFMの民族音楽の時間に、小泉文夫さんが、「歌謡曲の中でも、例えば演歌は日本的なものと考えられているが、その演歌で使われている楽器を考えてみると、ほとんど西洋楽器である」という指摘をされていたのを思い出します。小泉さんの話は、「それでも西洋楽器で演奏されているということを特に意識もせずに、演歌は日本人の心とか言われていたりする。それだけ、西洋楽器が土着化したのだ」と続いたのかどうか、もう20年も前のことですから、思いだしようもないですが・・・。
話戻って、昭和の歌謡曲。初期は、「出た〜」と幽霊扱いを受けた佐藤千夜子とかの「音楽学校系」とか、二村定一とかの「浅草オペラ系」とか、結局「舶来物系」が多いんですよね。和物では、まだ雑記では登場してませんが、芸者系の歌手たちとか・・・。そこにディック・ミネの「ジャズ系」が登場するのが、昭和10年1月発売の「ダイナ」
まだ、「戦後の歌謡曲から類推できるような歌謡曲」っていうか「昭和25年以降の歌謡曲が一番歌謡曲らしかった時代の歌謡曲」っていうか、ややこしい表現ですが、まあ、「私とほぼ同世代の人がもっている歌謡曲のイメージ」がまだ成立してなかった頃の歌です。この「無情の夢」は・・・。
というと歌謡曲に詳しい方から、何を言っているんだ、古賀政夫大先生の「酒は涙か溜息か」は昭和6年8月であるぞ、というご指摘を受けそうな気がしますが、たしかに、メロディー・歌詞はともかく、藤山一郎の歌い方、さっぱり「歌謡曲」してないんですね〜。コブシを利かせていないとかいうんでしょうか? 私、藤山一郎の「酒は・・・」とか「影を慕いて」とか、いまいちですね〜。「丘を越えて」「東京ラプソディ」「青い山脈」「長崎の鐘」とかは好きなんですけど・・。
さて「無情の夢」ですが、この曲、「レストラン」ではなく「西洋料理店」というか、「西洋楽器の土着化の初期段階」って感じの編曲です。クラシック調なんだけど、和風。和物というには西洋すぎる編曲です。
「丘を越えて」も西洋と日本の中間的な曲ですが、これは別に結果としての「洋食」みたいな曲ですが、この「無情の夢」はどうも「意識的な」和洋折衷のようです。
歌手の児玉好雄って、何かこの曲以外知らないんですが、小学館版「昭和の歌511」の解説によると
イタリア留学の経験をもつクラシック歌手。生真面目な彼は日本人としてのアイデンティティを保つために小唄や民謡の研究を熱心に行い、これが功を奏したか見事にコブシのきいた歌い方になっている。んだそうです。また、岡田則夫の「続・蒐集奇談」(『レココレ』2000年6月)によると
彼は本格的な音楽を学んだテノールである。本名・児玉義雄。明治42年1月28日、広島に生まれる。大正13年、広島中学中退後に渡米、パシフィック・ユニヴァーシティ音楽科を卒業後、昭和5年に帰国し、日本青年館で音楽会を開催したあとすぐにイタリアへ行き、フェーラー、ビネッティ等に師事してオペラ曲を学んだ。5年間して修行して帰国。すぐビクターの専属となった。とのことである。
デビュー曲は「無情の夢」。ビクターの月報の紹介記事によると、彼はイタリア滞在中にも常に「二上り新内」や「槍錆」など日本の小唄を愛唱していたとのことである。児玉好雄の歌は本格的なクラシックの歌唱法に、そういった日本の邦楽の節回しを加えた独特のもので、いまだに根強いファンがいる。
「意図的な和洋折衷」だったようである。が、歌唱を期待して聞いたらちょっとがっかりするかも・・・。
同じ作詞・作曲のコンビの作品には、他に、灰田勝彦の「燦めく星座」(「歌謡曲」っぽい)「アルプスの牧場」、「新雪」、渡辺はま子の「桑港(シスコ)のチャイナ街(タウン)」(漢字に英語のルビを振るのが愛らしい・・・)、小畑実の「高原の駅よ、さようなら」とかがあります。
作詞の佐伯孝夫には、「鈴懸の経」(作曲は灰田晴彦;勝彦の兄君)とか、「東京の屋根の下で」(曲:服部良一)、「銀座カンカン娘」(同左)、とか、我らがテリー、暁テル子の「ミネソタの卵売り」(曲:利根一郎)もこの人。
しかし、この「無情の夢」、暗い世相を反映・・とか思ったら、次の月、昭和10年8月には「二人は若い」が発売されているのであ〜る。
う〜む・・・
と、岡田則夫の「続・蒐集奇談」(『レココレ』2000年6月):
この歌が大流行し始めた頃、「命をかけた恋じゃもの」や「花にそむいて男泣き」という歌詞に、内務省警保局のお役人からクレームがついた。「男が恋に命をかけるとは何たることか」というわけである。前年からレコードの検閲が始まり、庶民の娯楽にもお上の目が光るきゅうくつな時代になっていきたのである。なんだって・・・。
機会があれば「無情の夢」聞いて見て下さい。おセンチでいいですよ〜。岡山市の幸町図書館が利用できる方は「小学館 昭和の歌」の第2巻に収録されています。
ではでは。。。。。