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さみだれ雑記(6)1999年6月9日
 

 本屋で、「大英帝国はミュージック・ホールから」(だったと思う)という選書を見つけて、ちょっとだけ期待したけど、参考文献はあっても、CD案内とかナシ。やっぱりそんなもんね。音楽の本じゃなくて社会学(でいいのかな?)の本だから・・・。でも、楽譜のリストは載せてんだよね。何で?ひょっとしてこの人CD一枚も持ってないの?

 ということで唐突にミュージックホールCD案内です。といっても私もほとんど持っていないんです。興味あるからもうちょっとCDを入手したくてディスコグラフィ期待したんですけど・・・。だれか、今回紹介していないCDを持っている人、もって無くても情報持っている人がいたらぜひメールください。
 

The Golden Years Of Music Hall (SAYDISK CD-SDL 380)(イギリス盤)

録音は1901年から1934年まで。3分の2以上が25年以前。これでびっくりした人、この指止まれ。なんせ、電気録音以前の音源ってなかなか入手できないんですよね
 残念なのは、英語が超分かる人にはいいのかもしれないが、しゃべくりになって「つらい」曲が多いこと。
全23曲のうち、楽しめるのは4曲程度でしょうか・・。

あ!ミュージック・ホールがいかなるものか、の説明がなかった。ご存じの人も多いとは思うんだが、あの、例の、日本にある、おねーちゃんが・・・って誤解は、左のジャケット見れば、おこりようがないか・・。

え〜、ミュージック・ホールとは、1852年に開店したカンタベリ・ミュージック・ホールから始まり、1880年から1910年までが全盛期とされる、イギリスの演芸場。雰囲気としては、映画の「マイ・フェア・レディ」でイライザの親父が結婚式の前夜に歌うシーンを思い出してもらえばいいんじゃないだろうか?
それとか、Ian Duryの曲でMax Wallが歌った、England's Glory。(Ian Dury自身も歌ってるが)っていってもほとんどの人は知らないだろうが傑作。それとか、かのBeatlesのWhen I'm Sixty Fourなんかも、ちょっとミュージックホール的。
 このCD、私を含めて一般人にはいまいちだと思いますが、資料として貴重。ミュージックホールのみのCDってこれしか知らない。EMIで出してそうなんだが私は知らない・・・。
 ただし、日本に50人ぐらいはいると思うHermn's Hermitsマニアには必須のアルバムです。7曲目、1911年、Harry Championの演ずるは、なんと"I'm Henery The Eighth"、「ヘンリー8世君」なのでありました。このオリジナルバージョン聴くまで知らなかったが、この曲の内容は、「となりの後家さんの結婚相手が全部ヘンリーという名前で僕はヘンリー8番目」って曲でした。知ってましたた?みなさん。なお、原曲はHenryじゃなくHeneryと表記されてます。
 

The Wibbly Wobbly Walk (SAYDISK CD-SDL 350)

サブタイトルが,Novelty numbers from original phonograph cylinders and 78's とあります。なんとエディソン発明の円筒型蓄音機からの復刻が8曲。これは珍しい。私もたしか円筒盤の復刻はあともう一枚しか持っていないはず。(どんな蓄音機かみたい人はここをクリック。)
 録音は、1907-1929と古め。内容は英米とりまぜたノベルティ集、インスト物まであって、ミュージックホール以外の方が多かったりするが、そのためかえってバラエティに富んで、一応、戦前物が好きな人は買ってもいいのでは?と思います。ジャケットもおばあさんがかわいくていいですしね。
 日本に5人程度はいると思えるAl Jolsonマニアはこれまた必須。5曲目、Billy Mersonが歌うは、The Spaniard That Blighted My Life。そう例の裁判にもなったオリジナル。ただし録音は再録ものらしい。
 さらに、日本に50人以上はいそうな・・・またかよ。でもこれ受けない自信があるなあ。なんせ、カバーした人が灰田勝彦だから。灰田勝彦のマニアが何人いようと、カバー曲の元歌に興味示す人がいるんだろうか?灰田勝彦盤は昭和12年8月の「真っ赤な封筒」。オリジナルは2曲目、Premier Quartetによる1920年のOh By Jingo, Oh By Gee。この曲はいい。私はこの曲だけでもこのCD買います。途中にかけあい漫才になるという、ひょっとしてあきれたぼういずにも影響を与えたか?って曲です。かけあい漫才の部分も、多少聞き取り力がある人には、おちが理解できるのでは?ということでネタはばらしません。(あんまり笑いを期待したら「つまんなかった」といわれそう・・・)
 あと有名どこではBilly Murryの曲が1曲あるが、Billy Murryって言われてもねえ。しかし1890年から1954年までのヒットチャート歴代第5位がこの人。ちなみに、1位はビング・クロスビー、以下、ポール・ホワイトマン、ガイ・ロンバード、トミー・ドーシーの順。ガイ・ロンバードって誰?私知りません。(出典は中村とうようの引用によるホイットバーンの「ポップ・メモリーズ」)
 

Whistle Away Your Blues (SAYDISC CD-SDL 370)

SAYDISKばっかじゃないか。すみません、それしか無いんだもの。
 このCDには、ミュージック・ホール物は3曲だけ。すべて、Harry Lauder。この人、ミュージック・ホールの人で最初にSirの称号をちょうだいした人だそうで、一応第一人者らしいです。今回の1枚目にも1曲あります。3曲の1曲はミュージック・ホールではなくトラッドです。のこりの2曲のうち1曲はこのCDのは20年代の再録らしいですが、1905年録音盤が中村とうようのCD版「大衆音楽の真実1」で聞けます。
 だからミュージック・ホールということではこのCD推薦できませんが、音楽的な出来はこれが一番。副題が Popular Dances & Singers of the 1920's from the Original Recordings とあるようにインスト物が半分ぐらいしめますが、これがいい。チャールストンになるのかラグになるのかワンステップになるのかポルカになるのか全然私に区別する能力ないんですが、ジャズジャズしてないダンス・バンド。別にジャズに恨みもつらみもないですが、新鮮ですよ。可愛らしく、きびきびして、適当に荒くて、意表をつくアレンジの展開したり、Yes, We Have No Bananasのメロディを引用したり、いやはや。推薦します。
 なお、Yes, We Have No Bananasってね、オードリィ・ヘップバーン(ヘバーンが正しい発音だそうだが)とハンフリー・ボガードの「サブリナ」で二人がボートに乗って蓄音機で古い歌聴いていて、オードリィがこの歌知らないとか言って、ボガードが年の差を感じてしまう問題の歌。ふふふ、私は知っているぞ、とか思いながらBSで見ました。何のこちゃ。
 脱線ついでに、大脱線。
 このCDに2曲、1929年のLloyd Shakespeare Band の曲があります。と言ってももちろん(私には)正体不明のバンドなんですが。シェイクスピアですよ。シェイクスピア。すごい名前、子孫なんだろうか? で、1922年のT.S.Eliot, The Waste Landに次のような一節があるんですよ。

O O O O that Shakespeherian Rag -
It's so elegant
So intelligent
これって、ひょっとして、Lloyd Shakespeare Band の演奏するラグ???1922年と1929年だから、苦しいですが、ひょっとすると・・・。でも、今はどうか知りませんが、学生時代に買った本では、この箇所の注に、「Ragはragtimeの略称,黒人の音楽によくある,syncopation の多いリズムをいう。この語はもともとragged time (ぼろくそ拍子)の意(UED)で、ここではやはり軽蔑的な用い方をされている」とか「elegantもintelligentも無論アイロニーで、ユーモラスなるが故に一層辛辣な批評になっている」とか書いてあって、すごく違和感感じた記憶がありますが、ragtimeってやっぱりelegantだと思うなあ。intelligentだとはあんまり思わないけど。そんでね今回の1枚目の解説によると、T.S.Eliotって、Marie Lloydって人を絶賛してたらしい。その人こんな人。おいおい。ついでにこんな人とこんな人がミュージック・ホールのスターだったそうです。楽しいでしょ?何の話だったかというと、やはりT.S.Eliotも「低俗」が好きだったんだって話。日本の学者界が頭でっかちなだけでね、と思う。今もそうなんかなあ?

 ということで、見事に今回の出だしに戻って、ミュージック・ホールの本を、ディスコグラフィ無しで平気で世の中に出す学者さんがいるんだから、あんまし変わってないみたい。実物聴かすに物しゃべるな。Eliotに関しても分かったようなこと書いている人がどれくらい実際のラグを聴いたことがあるのか非常に疑問。あ、もちろん「大英帝国はミュージック・ホールから」とかいう本買いませんでした。(もし、本文の中にCD案内とか書いてたらごめんね)
 



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